まさかの社会見学

元気でした。

朝からA君が入院する病院へ。今日の10時から手術だそうなので、その前に顔を見に行く事にした。「社会見学に来る?」「何かグロテスクな物が撮れるといいね」等と恐ろしい事を言うA君、取り敢えずカメラは持って来た。さてさて、どうしてるかなあと病室を探して尋ねてみたら、Macbookを前に、普通にゲーム開発をしているA君の姿が。12年前の刀根山病院と全く同じ光景で、思わず噴き出す。

A君は元気だった。ちょっと悟ったような表情だ。今の所は痛みも無く、「思った以上に集中して作業出来るわ」との事。なるほど、自宅だと娘さんの相手もあるから、なかなかここまで集中は出来ないのかもしれない。写真撮っとくかと質問したら、実に良い笑顔で収まってくれた。

程無く奥さんが来る。症状も理解していて取り乱した様子も無く、いつも通りだ。聞けばA君の実家(そこそこ遠方)から両親が駆けつけるとの事。電話口でA君のお父さんが「不安やろうからワシらも顔出すわ」と言われたそうだが、口振りから察するに、不安なのはご両親のほうではないかと。そりゃ実の息子だし、二回目だし。

手術開始予定まであと20分、何とかご両親が到着。A君とは15年来の仲だが、親御さんとは実はこれが初対面。写真でも見た事が無かった親御さんと、こんな場面でお会いする事になろうとは。懇切丁寧に個人情報を暴露しながら僕の紹介してくれるA君。一瞬で場が和んだけど恥ずかしいからやめて下さい。取り敢えず写真撮りますか、と集合写真を撮った。シュール極まりない。

腰がやたらほっそり。

予定よりちょっと押しの10時過ぎ、看護師さんがやってきた。ベッドに寝かされる事も無く、皆で歩いて手術室へ移動。ハッとした。手術着モードになったA君の後姿が女性っぽ過ぎる。学生時代、A君にそっくりな女性を3度見かけた事を思い出したとご両親に報告する。どんどんノリがおかしくなってくる。A君があまりにセクシーだったので、エレベーターホールにて全員で撮影大会。ノリノリでポーズを取るA君。看護師さんも噴き出していた。今から手術するって事、みんな忘れてないか。

エレベーターに乗って、降りたらすぐ手術室。別れの挨拶もそこそこに、A君はさっさと手術室に入っていってしまった。そのまま家族用待合室に通される、ご両親、奥さん、僕の4人。ここからA君の過去のエピソードがバンバン出てくる事になる。親御さんからは幼少の頃に描いた漫画の話や、壁の落書きの話、通信簿に毎回赤ペンで『もう少し皆の輪に入りましょう』と書かれていた話を、僕からは学生時代のあらゆるエピソードと洞窟物語の話を、奥さんからは家での話や娘さんの話を。偶然にも、お互いが丁度知らない部分を補完し合う形になって大盛り上がり。看護師さんに怒られた。すいません。

何より一番驚いたのが、A君のお父さんがノートPCを巧みに操って、A君のニュースを読破していた事。ゲームのタイトルも、GDCの事も、仕事仲間の話も全部ご存知。それどころか、検索で引っかかった僕のこのブログまで。「あー、あの記事書いたの君か!」…何だか本当に申し訳ありません。聞けばA君がアメリカに飛び出した頃から、毎日ノートPCを抱えて生活しているそうだ。それまでPCなんか、ほとんど触った事が無かったのに。家族愛。

程無く、娘さんが帰宅する時間となる。迎えついでに食事も済ませて来るので、ちょっとだけ待っていてもらえますかとの事だったので快諾、ノンビリ待つ事にする。そうこうしていると、家族より先にA君の手術が終わってしまって執刀医さんが挨拶に来た。「ご家族の方…じゃないですよね、どうしようかなあ」と言われたので、すぐ連絡を取りましょうかと言うと、「いや、患部を確認して貰いたくて」との事。よく見ると、容器の中に切り取った患部らしきものがある。そして、思いもよらぬ発言が先生から飛び出した。

「撮ります?そのカメラで…後でご家族に見て貰う形で」

まさか、まさか本当にグロテスク(?)なものを撮影する事になろうとは。恐らくこれが最初で最後、Nikon D7000での患部撮影。後で確認したら、ちょっとだけピントがズレていた。己の心の弱さを恥じるも、突然癒着した患部見せられて、平常心で撮影出来るかい。あと、載せられるかい。

麻酔が覚めて手術室から出てくるのと、A君の家族が帰ってきたのがほぼ同時。元気そうな娘さんが飛び出してきた。流石にさっきの写真を見せる訳にはいかないので、コソコソ家族に見せてみた。「うわー」、はい、僕も同じ反応でした。肝心のA君は、まだ麻酔から少ししか覚めていない状態で、体中に管を通していて苦しそうだ。それでも先生曰く、「早けりゃ3日で退院です」との事。本当か。ともかく、あまり長居しても悪いので、挨拶をして病院を後にした。