プロフィール
中村彰憲

立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。

『洞窟物語』の天谷氏が語る「ゲームを作りたい君へ」

『洞窟物語』の天谷氏が語る「ゲームを作りたい君へ」

 

 2012年度からはじまり、現在、3回目を迎える京都インディーズゲームセミナー。今回は、京都、大阪に加え、名古屋、福島、兵庫、神奈川と文字取り日本各地からゲーム開発に興味がある様々な人たち、80名強が参加した。


 「ゲームを作りたい君へ」と題された本セミナーには、『洞窟物語』で知られる天谷大輔氏、『LA MULANA』で知られる樽村匠氏並びにアクティブゲーミングメディアのインディーゲーム向けポータルサイトPlayism担当のジャシュア・ウェザフォード氏による講演と、3人による鼎談(ていだん)が行われた。

 

▲『洞窟物語』で知られる天谷大輔氏

 

 最初は天谷氏が 「ゲームを作る」をテーマに講演。天谷氏の『洞窟物語』は、5年がかりで制作し、リリースしたところ、瞬く間にアメリカに広がり、有志により英語化がされ世界中へと拡がって行った作品でもある。そんな天谷氏が最初のアドバイスとして示したのが「ゲームを完成させよう」。まず、「完成したゲームを拡散させていろいろな人にプレイしてもらうべき」と提案し、その方法として、「Vector」や「フリーゲーム夢現」、「ふりーむ!」といったフリーソフトプラットフォームや、「Google Play」、「iPhone App Store」などアプリ販売用・配布用プラットフォームを例としてあげ、こういったサイトにゲームをアップすればゲーム系専門誌に掲載してもらえる場合もあるという。天谷氏は『洞窟物語』の掲載履歴に触れ、「こういった記事への掲載は、掲載料を得る事ができる訳ではないものの、掲載号の見本誌は送ってくれる」と言う。また、自身のゲームが掲載された時の気分は格別だとそのときの心境を語った。

 なお、大規模掲示板などを確認し、プレイヤーの声を聞く事も大切である。特に、喜びの声を聞く事ができた時は、苦労が報われた気持ちだったと天谷氏は、語った。ただし、自身がユーザーからのフィードバックにPixelの名義で感謝の意を返信したところ、罵倒されてしまい、距離の取り方には注意が必要とアドバイスも忘れなかった。

 総じて、作品を完成させることは次の作品への自信にもつながる。開発中は「作品が完成するのか?」といった不安が常につきまとうが、作品を完成することでその不安も低減できるとのこと。

 さらに世界展開についても触れた。学生時代は社会や英語の科目が大嫌いだった天谷氏は、日本がゲーム大国だったこともあり、苦手な科目を勉強したと話した。『洞窟物語』の場合もゲームをやりたいがために、日本語を勉強した人が、同作を見つけ英訳したと、『洞窟物語』が世界展開された経緯について触れた。

 一方、インディーズとしてゲーム作りをする際は、それを仕事にすることを目標にするべきではないという。これについては、自身も学生時代ゲーム作りに没頭してしまったものの、体を壊わしたり、業界の過酷な生活にはなじめないとの判断から、趣味として作ることを決めたという経歴についても触れた。いいゲームを作り最終的にそれでお金を稼ぎ、生活が出来る様になればいいが、インディーズのいいところは、「作りたいものを作れる」という点を強調している。最初から生活がかかってしまうとゲームにも自ずといろいろな制約がかかってしまい、それがゆがみにつながってしまう。ゲームの完成こそが「はじまり」であると伝え、とにかく最後まで完成させることの重要性を改めて指摘した。


過去に多くの作品を没にした天谷氏が伝える自身の考える「面白さ」に忠実であることの意味

 


 、次に示されたのは、先ほど話した内容とはまったく異なる「ゲームは完成しないらしい」である。冒頭では、彼自身が開発途中で断念した数々のゲームタイトルに触れ、ゲーム開発を中断してしまう様々な理由を話した。まずは「力不足」である。頭にイメージはあるものの、それに見合ったスキルが無い場合を指した。中には、プログラミングに関する知識を完全にマスターしてから作ろうと思っている人もいるようだが、それは絶対に不可能と天谷氏は言う。むしろ、自分が表現したいものを表現する最低限必要な技術を取得したところで作りはじめ、あとは作りながら知識を蓄積すべきと忠告した。また、チームで作るときは、「仲間に伝わらない」場合もあげ、これについては何が作りたいかを考えながら作っていくべきと話した。また、作る事に飽きたり、作ってみて、つまらないゲームであることが明らかになってやめる場合、他のゲームを作りたくなってやめてしまう場合もあると言う。

 

 

 

 さらには、暇が無くなる。学生から社会人になるなど、「生活リズムが変わる」という事も開発を断念する大きな理由になると言う。天谷氏自身も学生時代にゲームを作りだしたものの、就職した途端にそれどころではなくなってしまった。学校の友人とも会えなくなり、そのままお蔵入りする場合が多いとのこと。またなお、独身時代と家族を養っている時期でも自由時間は圧倒的に違うと天谷氏は自身の経験を振り返る。彼は、独身サラリーマン時代に『洞窟物語』を開発したのだが、その期間は、同ゲーム以外にも数多くのミニゲームを開発する時間があった。だが、結婚し、子供が生まれると自由な時間は1日で1~2時間程度になってしまう。そのような中でもゲームを開発しなければと奮い立ち、小規模のシューティングゲームの開発に取り組んでみたが完成するのに1年もかかってしまった。

 これらを経て、天谷氏は会社を辞めゲーム開発に専念することになる。ゲーム開発自体が自営業となっているので、ゲーム開発時間がかなりあるように見えるものの、個人事業主となることで総務業務が増え、ゲーム開発のために自由に使える時間は子供が生まれる前のサラリーマン時代程度に留まった。また、自宅でゲーム開発をしていると、日常的な雑務に追われがちだったことから、自宅近くのカレー店でチャイなども提供している「ダルママサラ」というお店に通っていた。ただ、混雑するときなどもあり、最終的にはインキュベーション施設に入居して、現在はそこでゲーム開発を進めているとのこと。これで随分ゲーム開発がはかどったと天谷氏。ただ、新作である『Gero Blaster』も、6カ月で開発する予定が2年半もかかっており、作家性の強いインディーズは、いつまでも作り続けてしまう傾向にあることを示した。あれも、これもと自分に理想に向かって次々と追加してしまうのだ。

 天谷氏が最後に語ったのは「ゲームを完成させるには」である。まず自分自身の中で「完成とは何か」を改めて問い直し、それに向かってゲーム開発をするための「やる気」を維持する必要があると言う。

 天谷氏は、肝心のどこに「ゲームの完成」を定義するかについて天谷氏は、「Ver.1.0」と定義することを薦めた。さらに、これを「顧客に渡せる形にすること」とし、ゲームプレイのためにOSが止まってしまうような致命的なバグを無くすことや、スマートフォン向けのゲームの場合は、途中で電話に出た後でゲームが止まってしまうといった問題を全て無くすなど徹底的に作り込む必要がある。

 また、インディーズなので、大作RPGのようなボリュームがあるモノを開発しようと思うのでは無く、まず小さなゲームでVer.1.0を作る。ただ、作るときは、細部までこだわる必要がある。それが負担になってしまうようであれば、本人が作るというよりはプロデュースする側かディレクターにまわったほうがいいと薦める。同時に、どうしても制約が多くなってしまうという中で、むしろ、それをポジティブに考える事が重要だと言う。表現力が低いほうが、プレイヤーの想像力をかき立てる場合があると説いた。また、現行PCのマシンパワーに合わせてゲーム開発をしてしまうと、任天堂DSへの移植すら出来ない。また、この時代にドット絵を堂々と出来るのもインディーズの特権だと天谷氏は言う。

 

 自分の得意な方法で作るのが大切で、『RPGツクール』などでもいいのでとにかくゲームを作り、それから技術のある人にお願いしてプレイしてもらい仲間になってもらうのも一つの手であるとした。

 

 

 


楽しいゲームづくりを阻害する「ムシ」

 


 これらを踏まえつつ、天谷氏は、ゲーム開発の流れの大枠を説明していった。


 実際、何度開発しても没になる場合が多いと天谷氏は示す。時には本開発に進んでいた場合でも没になる場合があるが、重要なのはブラッシュアップだと指摘する。また、天谷氏は「面白いゲーム」とは一言で、「1度見てみたい」と思えるモノ、つまりアイデアとして斬新で興味深いものであるのに対し、「楽しいゲーム」とは「さわってみたい! また会いたい!」と思える様なモノであるとし、ゲームとしてはずっとプレイができるものであるとし持論をまとめたうえで、ゲームデザイナーとしては、「面白いゲーム」よりも「楽しいゲーム」を目指すべきだと述べた。

 これらをふまえつつ「面白いゲーム」が「楽しいゲーム」になることを阻止する5匹のお邪魔ムシたちがいると天谷氏。

具体的には、

-分かりにくいムシ
-操作しにくいムシ
-テンポ悪いムシ
-誤解ムシ
-バグ(英語でムシの意。同時にプログラム上の不具合を指す)

であり、これらを解消していくのがブラッシュアップであるとした。ただ、自分だけでこれらに対処しようとすると、情熱をもって開発しているだけに「アバタもエクボ」のようになってしまうとのこと。だから、仲間が大切と天谷氏。会社勤めの時代には、ビデオゲームの話が出来る30代後半の人たちに会える機会があまりなかったという。しかし、ゲーム作りに興味があるということが分かっている仲間がいるだけでも気持ちは変わるとのこと。

 また、世界に目を向けることも大切だと改めて強調。世界に日本のゲームを好きな人はまだ数多くおり、この状況を最大限に利用して、いいゲームを作っていましょうと、皆にエールを送る形で講演を終了した。

 以上、このセッションだけでも参考になる点が多かったが、本セミナーは、インディーズゲームシーンを湧かすさらに2人のクリエイターが講演した。これらについては、次回ご紹介しよう。なお、京都では、IGDA Kansaiと日本デジタルゲーム学会関西地域研究会が共同で、7月5日、ミクシイアプリとしても話題となった『まちつく+』と『仮面ライダーウィザードGPS』を開発したクリエイターによるダブルトークが予定されている。インディーズやゲームベンチャー企業が活況な京都におけるゲームシーンの最前線をチェックしたい人は是非参加をおススメしたい。

『洞窟物語』
 
第6回京都デベロッパー交流会&勉強会